吉田竜一弁護士ブログ

76回目の「原爆の日」に

7月31日、神戸で兵庫県弁護士9条の会の総会が開催されたのですが、退院後もステロイドを服用中で免疫力、抵抗力が相当低下している状況にあることから、会議にはZOOMで参加しました。

会議の中で、代表呼びかけ人である羽柴弁護士を初め、参加者の報告、発言において「令和の国防」を引用して9条の危機が語られることが何回かあり、早速、購入して目を通したのですが、とにかくびっくり。

本の帯に「さらば空想的平和主義!」と書いてあり、予想はできたことでしたが、憲法9条のもとでの「専守防衛」を「鎖国主義」と批判し、中距離ミサイル配備、核オプションの検討を提言したり、「戦争指導が可能なリーダーを」との項目があったり………

現役の自衛隊幹部がここまであからさまに憲法9条を否定した国防を公の書籍で論じることに、個人的には違和感を感ぜざるを得ません。

もっとも、そうした見解は、自衛隊が国土、国民を守り切るためには何が必要なのか、という考えのもとに展開されており、私たちを守ってくれるためには、そうするしかないのであれば、仕方がないのではないか、と考える人も少なくないのかもしれません。

しかし、元航空自衛官で軍事ジャーナリストである潮匡人氏は、その著書「常識としての軍事学」(中公新書クラレ。2005年1月発行)の中で、「日本の『国家目的』とは何なのでしょうか。端的に自衛隊は何を守るのか,と言い換えてもよいでしょう。それは国民の生命・財産に決まっているではないか。そう考える人もいるでしょう」,「法令上の正解は『平和と独立』ですが,軍隊が何を守るのかと言い換えるなら,その答えは国民の生命・財産ではありません。それらを守るのは警察や消防の仕事であって,軍隊の『本来任務』ではないのです。ならば,軍隊が守るものとは何なのか。それは『国家目標』の上位にあるもの。国家目的という言葉がしっくりこなければ,国家にとって『至上の価値』と言い換えても良いでしょう。」「その中身はいったい何なのか。日本の皇室伝統が無縁でないことは明らかです」ということを明言しています。

軍隊が戦争になれば私たち国民を守ってくれるというのは幻想に過ぎません。

さて、今日8月6日は、76回目の原爆の日です。

IOCのバッハ会長は、五輪開催1週間前の7月16日に世論の反対を押し切る形で広島訪問を強行し、平和記念公園の原爆慰霊碑で献花と黙とうを行いながら、広島市などの要請を無視し、8月6日の広島の「原爆の日」に選手や関係者に黙禱を呼びかけるなどの対応はしないことを決めたようです。歴史の痛ましい出来事や様々な理由で亡くなった人たちに思いをはせるプログラムが8日の閉会式の中に盛り込まれていることが理由のようですが、8月6日に黙祷することと9日の閉会式にも追悼の意を表すことには何の矛盾もありません。

今般の決定は、まさにバッハ会長の広島訪問がポーズだけだったことを示すものといえますが、五輪憲章には、五輪の目的が「人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある」ことが謳われており、五輪開催中に原爆記念日があるのに、その日に黙祷を捧げることさえしないというのであれば、もはやIOCには五輪が平和の祭典であるなどという資格はないというべきでしょう。

また菅首相は本日の平和記念式典で原稿1ページを読み飛ばしたようです。人のつくった原稿でも真面目に語ろうとするのであれば,1ページの読み飛ばしに気付かないなどということはあり得ません。結局,この人が広島に来たのもバッハさんと同じくポーズに過ぎないのでしょう。

この人にも9条を語る資格はありません。

九条の会の発起人の1人であった大江健三郎氏は、ノーベル賞文学賞の受賞演説において、「不戦の誓いを日本国の憲法から取り外せば・・・なによりもまずわれわれは,アジアと広島,長崎の犠牲者たちを裏切ることになるのです」と述べられましたが、私はこれからもこの言葉を噛みしめて、微力ながら憲法9条擁護のための活動にも尽くしていきたいと考えています。

(アイキャッチ画像は2004年8月、初めて家族で広島を訪れた際に撮影したもの)

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