吉田竜一弁護士ブログ

傍観者になってはならない-森元首相の女性蔑視発言

東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長である森喜朗元首相、2月2日に五輪について「新型コロナウィルスがどういう形だろうと必ずやる」という、アスリートの命、国民の命の重さを何ら顧みないとんでもない発言をしたと思ったら、翌3日、JOCの臨時評議員会で「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」と発言しました。

この発言については、既に多くの方々が批判されており、敢えてブログで取り上げるまでもないと思っていたところ、シドニー大会から3大会連続で五輪に出場した為末大氏が、2月8日、Twitterで「沈黙は賛同であると言われ、強く反省しています。 私はいかなる性差別にも反対します。そして、理事会での森会長の処遇の検討を求めます。 原理原則を守り、良い方向に変わっていける国へ」と発言されました。

ジェンダー平等がなかなか進まない日本社会において、著名なアスリートが「私はいかなる性差別にも反対します」と表明すること自体に大きな意義があるといえますが、「沈黙は賛同であると言われ、強く反省しています」との発言にも極めて重要な意義があると思います。

私事になりますが、2018年11月から2019年4月まで多可町いじめ調査委員会の委員長を務めさせてもらいました。

いじめ問題について特に造詣が深いわけでもなく、専門家の委員の先生からいくつかの文献を教えて頂き、いろいろと勉強しながら何とか委員長職を全うすることができたのですが、特に役立った文献は、中井久夫神戸大学名誉教授の「いじめの政治学」(1997年)と森田洋司大阪市立大学名誉教授の「いじめとは何か」(2010年)でした。

森田洋司大阪市大名誉教授は、「いじめとは何か」の中で、いじめが、加害者、被害者だけでなく、その周囲にいる観衆、傍観者という四層の子どもたちが絡まりあった構造のなかで起こっていること(いじめの四層構造)を明らかにしています。

その上で、教授は「観衆」は直接手を下してはいないが、「ときにははやし立てることによって、いじめの炎に油を注ぎ込む存在」で、「観衆」もまた加害者側に立っているということだけでなく、知らぬふりを装い、見て見ぬふりをする「傍観者」も、「実際には、いじめを抑止する力となりえない、傍観者的な態度は、かえって、いじめている子どもを支持する存在となる」こと、いじめに対しては傍観者ではなく、これを止める仲裁者にならなければならないことを明らかにしています(下の図は多可町発行のリーフレットに掲載されているものです)。

弁護士になりたてで右往左往していた頃、自由法曹団の先輩弁護士から言われたことは、「会議に出たら何でもいいから1回は発言しろ。若手だからといって遠慮するな」ということでした。男性であろうが女性であろうが参加者の活発な意見なくして充実した会議など実現できませんし、女性の参加者が多くて会議が長引いた経験など一度もしたことがありません。

森元首相の発言は、「女は黙っていろ」というに等しく、それは「女性は会議などに出ずに家にいろ」という悪しき役割分担論に通じる論外の発言で、このような発言をする人間を東京オリンピック、パラリンピックの顔にし続けておくことは、わが国が男女差別、ジェンダー不平等に関心がないことを示すようなものです(国益という言葉は好きではありませんが、まさに国益を損なう対応という他ありません)。

今般の森元首相の発言が、国際的に進められている男女平等、ジェンダー平等を否定した発言であること、その後の会見が謝罪、反省からはほど遠いものであったことからすれば(多くの方が指摘されているとおり、おそらく本人は何が問題なのかさえわかっていないと思います)、会長職は辞任してもらうしかありません。それが最低限のけじめでしょう。

そして、私たち自身も、自分の立場を振り返ってみる必要があります。

森元首相は、組織委員会には「(女性役員は)7人いるが、みなさんわきまえておられる」とも発言したところ、参加者から笑い声があがったようですが、笑い声をあげた人は、ジェンダー論の第一人者である上野千鶴子東京大学教授が、「差別発言に対し、沈黙したら見逃したということ。笑ったら同調したということ。つまり、性差別を再生産する共犯者になります」と述べておられるとおり、単なる傍観者でもなく、まさに森発言をはやし立てる「観衆」に他ならず、自らの態度を深く反省しなければなりません。

また、笑うことはしていなくとも、「不適切だった」と形だけの批判で終わり、森元首相の会長職続投を容認する人、問題はあったが83歳のおじいちゃんをそこまでいじめるべきではないなどと擁護する人たちも、この問題について「傍観者」の立場にたっているとの批判を免れないこと、沈黙し、傍観するだけでは、わが国における根強い男女差別、ジェンダー不平等は解消されることはないことを自覚すべきです。

多可町調査委員会が調査報告書を多可町に答申した直後の2019年4月14日のNHK日曜討論のテーマは、「みんなで考える いじめをどうなくす」だったのですが、パネラーとして出席されておられた森田洋司大阪市立大学名誉教授は、番組の終わりのまとめの発言で、「セクハラ、パワハラ等、いじめは子どもたちだけの問題ではない。社会全体が当事者意識をもって取り組みながら、社会全体をよくしていく」必要があると述べておられました。

男女平等、ジェンダー平等を実現することなく、社会全体がよくなることはあり得ません。

学校だけでなく、会社、社会で起きているいじめ、差別の問題、そして男女差別、ジェンダー不平等の問題について、私たちは、加害者にならないことはもちろんですが、傍観者の立場に逃げることもやめなければなりません。

為末大氏のtweetは上野千鶴子東京大学名誉教授の発言に触発されたものかもしれませんが、自らの問題を直ぐに自覚された点を含め、とにかく、あっぱれ!

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