楽天の三木谷浩史氏が自民党総裁選の前に自身のXを更新、「国家が『一元的に』単純な時間制限を押し付けるのは、仕事を通じて挑戦したり、より働いて自分の力をあげたり、収入を増やしたいという人の自由を奪う愚策だと思う」と労働基準法の時間規制を批判する主張をしました。
三木谷氏は、「こんなことを言うと叩かれるのだろうけど」とも述べておられるのですが、当然のことながら、こんな発言は叩かざるを得ません。
経団連は、今年の1月16日に公表した「労使自治を軸として労働法制に関する提言」の中で、労使自治に基づく労働時間規制のデロゲーションの範囲の拡大、すなわち、労使の話し合いで労働基準法が定める労働時間規制を緩和できる制度の導入を求めましたが、三木谷氏の発言は、労働基準法の時間規制を愚策と批判するもので、経団連の提言よりも更に過激なものということができます。
しかし、経団連の提言については、日本労働弁護団が、「労基法は、労働者が人たるに値する生活を営むため、雇用と労働条件の最低基準を保障するものである。特に労働時間規制については、労働者の生命・健康はもとより、労働者の生活時間を保障するためのものでもあって、逸脱が安易に認められるべきものではない」と批判する幹事長談話を発表していますが、三木谷氏の発言についても同様の批判が当てはまります。
現行の労働基準法には、時間外労働時間は月45時間、年360時間までを原則とするという労働時間規制が定められていますが、36協定に特別条項を定めれば、労働者に1か月で最大100時間まで、1年間で720時間までの時間外労働に服させることが可能となっています。
過労死ラインである月80時間を超える時間外労働を認めるなど極めて問題のある上限規制ということができますが、三木谷氏の発言は、このような企業の側に甘い労働時間規制も不要というもので論外という他ありません。
厚生労働省の発表によれば、2023年の過労死等に関する労災の請求件数は4598件、支給決定は1097件とのことで、この数字自体、軽視できるような数字ではないものの、過労死防止大阪センターによれば、労災請求がなされる事案は氷山の一角で、重い後遺障害が残った場合や自殺未遂を含めると、過労死・過労自殺の犠牲者は数万人になっているとのことですが、三木谷氏の発言どおりになれば、過労死、過労自殺する労働者がさらに増えることになるのは火を見るより明らかです。
かつて、ワタミの代表者で、参議院議員でもあった渡辺美樹氏は、「営業12時間のうち食事ができる店長は二流」「せいぜい水だけ」と放言していた和民で、入社2か月で月140時間もの時間外労働に服することを余儀なくされた26歳の女性社員が自殺するという事件まで起きているのに、2016年の参議院の中央公聴会で過労死した労働者のご遺族が長時間労働に反対したのに対し、「働くことが悪いことであるかのような議論に聞こえてきます」「週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえてきます」と暴言を述べ、謝罪に追い込まれたことがありましたが、私は、今回の三木谷氏の発言も渡辺美樹氏の発言も根っこにあるものは同じように感じました。
両者の発言には、使用者として労働者は何時間でも働かせたいという欲求しか感じることができません。
三木谷氏は「より働いて自分の力をあげたり、収入を増やしたいという人の自由を奪うな」などといいますが、過労死するほど働かないと自分の力があがらないというのであれば、力を上げる必要などないし、「収入を増やしたい人の自由」などという言葉は使用者が使う言葉ではなく、使用者がすべきは長時間労働に服さなくとも十分な収入を保障することでしょう。
日本労働弁護団の幹事長談話は、「経団連に求められるのはその加盟企業、加盟団体に対し、労基法の遵守を徹底させることであって、政府に対してその逸脱を提言することなどではない」と述べていますが、同じ言葉を三木谷氏にも贈りたいと思います。
過労死、過労自殺する労働者が出てからでは遅いのです。