吉田竜一弁護士ブログ

正規・非正規間の格差の是正は労働者全体の課題~労働組合のさらなる奮闘を期待しています!

15日、神戸市内で開かれた全労連近畿ブロックのパート・臨時・派遣労働者の連絡会交流会に招かれ、「同一労働同一賃金の現状と労働組合の取り組むべき課題」という演題で、パートタイム・有期雇用労働法を中心に70分程話をしてきました。

非正規労働者の全労働者の占める割合は1985年には16%、すなわち非正規労働者は全労働者の6人に1人でしかなかったのに、2019年には38%まで上昇。いまでは全労働者の5人に2人が非正規労働者となっています。2020年まで増え続けていた非正規労働者の数はコロナ禍の中で2021年には一定数減少していますが、それは少なからぬ非正規労働者が労働市場から放逐されてしまったことを意味していると思いますし、また非正規労働者が減少していても労働者5人のうち2人が非正規労働者だという割合は変わっていません。

2018年6月に「働き方」改革一括法を成立させた安倍元首相は、「非正規を一掃する」などと勇ましいことを述べていましたが、一括法の中で成立したパートタイム・有期雇用労働法8条は、「同一(価値)労働同一賃金原則」を定めた法律などではなく、旧労働契約法20条同様、①職務の内容、②人材活用の仕組み、③その他の事情を理由とする正規・非正規間の格差を認める法律でその内容は極めて不十分なものです。

特に問題なのは、格差が不合理で違法なものであることを明らかにすること自体が至難となっているという点だけでなく、パートタイム・有期雇用労働法8条のもとでは、非正規労働者の労働条件を引き上げることによって正規・非正規間の不合理な格差を是正することが予定はされてはいるものの、同条は、労使合意によって、正規労働者の労働条件を引き下げることによって正規・非正規間の不合理な格差を是正する方法が禁止されていないということです。このような方法で格差が是正されたところで、非正規労働者の労働条件は何ら改善されないというだけでなく、正規労働者の方も、非正規のために労働条件が下がったと考えるようになり、正規・非正規間の分断を一層深刻なものにするだけであることはいうまでもありません。

2018年1月22日の日本経済新聞は、一面に「日本の賃金、世界に見劣り」の見出しで、主要7か国(G7)の中で日本だけが2000年の賃金水準を下回っていることを報じましたが、大企業の内部留保は年々増え続け、コロナ禍の中でも484兆円まで膨らんでいるのに、労働者の平均年収は年々下がり続けてきました。

このことは企業の利益が減ったから賃金が下がったのではなく、企業は内部留保、経常利益を増やし続けながら賃金コストを削減していること、賃金コストの削減は正社員を非正規に置き換えることで実現されていることを示しています。 

しかし、企業の利益が増え続けているのに、労働者の賃金が下がり続けているなどという国は先進国の中でも日本だけのはずです。

このような現状のもとで正社員の賃金引下げという方法によって正規・非正規間の労働条件の均等均衡を実現することに労働組合が同意するなどというのは、組合の使命を放棄したものとの評価を免れるものではありません。

また、最高裁はハマキョウレックス事件・日本郵便事件の各判決で多くの手当等について非正規に対する不支給措置を違法と判断してきましたが、退職金、賞与の不支給措置についてはメトロコマース事件、大阪医科薬科大学事件で全額不支給措置も不合理ではないとの判断を示しましたが、退職金、賞与、基本給での正規・非正規間の格差が是正されることがなければ、正規・非正規間の格差が抜本的に埋まることなどあり得ず、メトロコマース事件・大阪医科薬科大学事件の最高裁判決は大阪民法協が声明で述べていたとおり、「今後の真の均等待遇の実現、格差是正の運動において必ず乗り越えなければならない大きな課題」です。

このように「同一(価値)労働同一賃金」を実現するための法律は極めて不十分なもので、裁判所の態度も決して積極的なものということはできないのですが、最高裁も旧労働契約法20条のもとでも賞与・退職金の不支給措置が不合理で違法となる場合のあること自体は認めていますし、またパートタイム・有期雇用労働法8条のもとでは、不合理性判断の基本的な考え方と具体的な内容を示した「同一労働同一賃金ガイドライン」が裁判所をも拘束する指針として機能することになります。

不十分ではあっても闘うための武器は皆無ではありません。

もっとも、武器が十分でないが故に、労働者が個々で闘っていくのは極めて至難であり、労働組合が、非正規労働者の問題を放置していれば、正規労働者の労働条件も改善されることはないこと、非正規労働者の問題が労働者全体の問題であることを認識した上で、非正規の問題についても積極的に取り組んでいくことが不可欠です。

一連の最高裁判決が出された2020年10月16日の朝日新聞も、最高裁が賞与の不支給措置が不合理でないとの判断を示したことを踏まえ、「今後、賃金総額を増やしたくない企業が、非正社員に手当を支払うために正社員の手当を減らしたり、逆に正社員の待遇を維持するために、手当の原資をボーナスに組み替えたりする動きも起きる可能性がある」ことを指摘し、「非正社員の声をすくい上げて待遇改善を求める一方、待遇をあわせるために正社員の労働条件を一方的に悪化させることは防ぐ――。労働組合の役割が、ますます重要になる」と述べていましたが、全くもって同感。

話の最後に、先月、日本労働弁護団の常任幹事でもある今泉義竜弁護士がTwitterでつぎのようにつぶやいておられたことを紹介しました。

多くの労働者が労働組合に結集して正規・非正規間の格差を労働者全体の問題としてその是正のために奮闘されることを大いに期待しています。

 

 

 

 

 

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