司法試験の法律選択科目は労働法でした。
まだ労働契約法が制定されていなかった受験時代、労働法の柱となるのは労働組合法と労働基準法でしたが、憲法28条が労働者に団結権、団体交渉権、争議権を保障していることから、争議権は労働法を勉強する上でかなりのウェイトを占める重要論点だったものの、私が大学生であった昭和50年代までにわが国ではストライキというものがほとんど行われなくなり、司法試験にも争議行為は出ないというのが当時の受験生の通説であったように思います。
1978年のシルベスター・スタローン主演の映画「フィスト」は全米最大のユニオンのリーダーにのしあがった男の栄光と挫折を描いた映画で、私は「ロッキー」シリーズよりも好きな映画でしたが、アメリカでは現在でも日常的にストライキが行われているのに対し、日本ではストライキという言葉自体が「死語」に近いものとなっていました。
1990年に弁護士になってから、労働事件は多々担当してきたものの、争議行為絡みの事件は担当したことがありません。
争議行為の典型がストライキですが、弁護士になってからの社会でも、注目を集めたストライキというのは、球団再編問題が起こった2004年9月に、プロ野球選手会が2日にわたって行ったストライキぐらいではないでしょうか。しかし、それからでも既に20年近くが経過しています。
そんななか、セブン&アイ・ホールディングスによる傘下の百貨店「そごう・西武」の売却を巡り、そごう・西武労働組合が西武池袋本店でストライキを実施、8月31日は西武池袋本店が全館休業となりました。
大手百貨店のストは、1962年5月の阪神百貨店以来61年振りとのことのようです。
ところで、ストが決行されたにもかかわらず、大手デパート、そごう・西武の親会社であるセブン&アイ・ホールディングスは、31日午前の取締役会で売却を最終的に決議したようで、このことだけを見ると、ストは無意味だったと考えられる方もおられるのかもしれません。
しかし、労働組合がこだわっていたのは、売却されること自体というよりも、売却によって、組合員である従業員の雇用はどうなるのか、雇用は守られるのか、「雇用の維持を約束してほしい」ということだったようです。
そうだとすれば、親会社のセブン&ホールディングスが売却を決議して発表したコメントで、「そごう・西武は今後とも組合との間で雇用維持や事業継続に関する団体交渉と協議を継続するとともに、当社は両者の協議について適切な範囲で支援や協力をしてまいります」と述べたというのですから、そのような発言をせざるを得ないまでに使用者を追い込んだストライキは相当な成果を挙げたと評価してよいのではないでしょうか。
全労連は、「そごう・西武労組の決断は『誰一人として路頭に迷わせない』決意だと受け止めました。労働者が声をあげれば必ず変えられる! 全労連は『労働者の権利と雇用を守る』ストライキに連帯します」とツィートしていますが、私も、賃上げという目的ではなく(これ自体、重要なことですが)、雇用維持という、より重要な目的のためにストライキに打って出たそごう・西武労働組合に敬意を表します。
そごう・西武、そして親会社であるセブン&ホールディングスは、労働組合の決断を重く受け止め、労働組合との真摯な協議のもと、従業員の雇用維持のために最大限の努力をすべきです。
(アイキャッチ画像は北海道・支笏湖。2014年撮影)