吉田竜一弁護士ブログ

医師に自己犠牲を強いる働き方改革では意味がない

食道がん切除の外科手術をしてから2年になります。

先日の定期検診では再発は認められませんでした。

食道がん再発については80%以上が2年以内ということらしいので、2年間、再発がなかったことで一安心ではありますが、食道がんの再発率自体が3~5割と高い率なので、まだまだ気を抜くことはできません。かなり元気になってきているとはいえ、節制するところは節制して、体調管理に努めていかなければなりません。

ところで、退院後、お世話になっているのは消化器内科の先生ですが、手術を担当していただき、入院中にお世話になったのは消化器外科の先生です。

後で知ったことですが、食道が心臓、肺、気管といった臓器に囲まれているため、最も難しいとされている食道がんの外科手術を成功させていただいたことについては、いまも心から感謝しているのですが、2か月の入院中、いつも思っていたことは、先生はいつ休まれているのだろうか、月何時間の時間外労働に従事されておられるのだろうかということでした。

入院患者には、朝と夕方に回診があるのですが、2か月の入院中、平日はもちろん、土曜も日曜も朝夕と主治医の先生が自ら診察してくれており、土曜日曜続けて、別の先生が診察してくれたことは1回だけだったと思います。日曜は交代されていることが何回かありましたが、土曜もほとんど診察してくれたのは主治医の先生で、当直だったのでしょうが、食道を再建するために切除した胃から少し出血があったときは、夜中に自らベッドを引っ張ってCT撮影室まで連れて行ってくれたこともありました。

入院患者だけを診ているだけではなく、平日の昼間には外来の診察を担当したり、手術を行ったりしているわけですから、体力がないとできない仕事であることは間違いなく、入院中、主治医の先生の時間外労働時間は月100時間は優に超えているのだろうなということを暇があると考えていました。

そうした献身的な治療のおかげで、かなり元気になったいまの自分があるわけで、消化器外科の主治医の先生には現在診察を担当してくれている消化器内科の先生とともに、いくら感謝しても感謝しきれないという気持ちは持ちづけているのですが、医者といえども生身の人間であり、医師の先生に自己犠牲を求め続ける状況が続けば、医師になろうという人も減少してしまい、適切な医療を受けることは困難となってしまいます。

やはり、一定の医療水準を確保し、適切な医療の供給を求めるというのであれば、医師の労働時間も適切に管理されなければなりませんが、適切な管理は法令によって医師の労働時間を制限することなしに実現できるものではありません。

働き方改革のもとで労働基準法に労働時間の上限規制ができたこと、適用を猶予されていた建設業にも来年4月1日から、この上限規制が適用されることになること、もっとも36協定に特別条項を定めれば、1か月で最大100時間、年間720時間まで労働者を働かせることが可能な仕組みになっていることは、前にブログで書きました。

適用が猶予されていた医師についても、来年4月1日から労働時間の上限が規制されるようになりますが、建設業で緩和されていた上限規制が、医師には更に緩和され、1か月最大100時間、年間960時間がその上限となっているだけでなく、一部の医療機関では、上限がさらに緩和され、年間で1860時間まで働かせることが可能となっています。

しかし、年間1860時間という時間外労働時間は1月にすれば平均155時間ということです。

厚生労働省の通達では1月80時間が過労死ラインとされているのに、毎月、その倍近くの155時間までは時間外労働が認められるなどというのは尋常ではなく、これを「医師の働き方改革」と評価することなど到底できません。

厚生労働省は、1860時間という上限は2035年までにはなくすということを言っているようですが、過労死ラインまでの時間外労働を認める960時間という上限規制にも問題があるのに、1860時間という上限をまだ10年以上も認めるなどというのは論外です。

8月、甲南医療センターの20代の医師が、長時間労働が原因でうつ病を発症して自殺し、ご遺族がセンターの運営法人を労基署に刑事告訴したという記事が報じられていましたが、このような悲劇を繰り返してはなりません。

地方における医師の偏在等、真の医師の働き方改革を実現するためには解決しなければならないいくつもの課題があることは理解しますが、最優先すべきは医師の健康確保であり、そのことが適切な医療の供給実現にもつながることになります。

医師の長時間労働の根本的原因は医師不足にあるのでしょうが、過労死ラインの倍以上も働かなければならない状況で、医師になろうという若い人たちが増えるとは到底思えません。医師に対しても速やかに適切な時間外労働時間の上限規制が実現されるべきです。

(本文中のページは厚生労働省作成のものから抜粋したもの)

 

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