吉田竜一弁護士ブログ

一日何もない奇跡をかみしめながら平和を訴え続ける~来年の抱負

2018年11月から2019年4月まで多可町いじめ調査委員会の委員長を務めさせてもらった際、いじめのことを勉強するについて特に役立った文献は、中井久夫神戸大学名誉教授の「いじめの政治学」(1997年)と森田洋司大阪市立大学名誉教授の「いじめとは何か」(2010年)だったことは、このブログで書いたことがありますが、昨年8月に亡くなられた精神医学者であった中井久夫先生は、いじめの問題だけでなく平和の問題にも造詣が深く、その著書「戦争と平和〜ある観察」で、「戦争反対の言論は、達成感に乏しく次第にアピールを失いがちである。平和は維持であるから、唱え続けなければならない。即ち、持続的にエネルギーを注ぎ続けなければならない。しかも効果は目に見えないから、結果によって勇気づけられることは滅多になく、あっても弱い。従って徒労感、敗北感が優位を占めてくる。そして戦争の記憶が遠のくにつれて、『今はいちおう平和じゃないか』『戦争が起こりそうになったら反対するさ』という考えが多くの者に起こりがちとなる。しかし、これは力不足ではない。平和を維持するということはそういうものなのである」と述べておられることを10月に中神戸法律事務所の羽柴弁護士に教えてもらいました。

平和を訴えることの難しさを的確に教えてくれる文章だと思います。

これも、このブログで何回も書いていることですが、岸田内閣は、昨年12月、いわゆる安保関連3文書に、自衛隊に敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有させることを明記したところ、閣議決定直後の世論調査では、敵基地攻撃能力の保有に賛成する人が過半数を超えていました。

このように多くの人が敵基地攻撃能力の保有やむなしと考えている原因が、「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」(憲法前文)という人類の普遍的価値を無視する国が現実に現れてきたことによるものであることは言うまでもないところでしょう。

人類が過去1世紀近くにわたって築き上げてきた武力行使の一般的禁止という国際社会の大原則が、ロシアという安保理の常任理事国によりあからさまな形で破られ、また、南シナ海を中心に、力による一方的な現状変更の試みを継続している中国を目の当たりにしたとき、力を持たなければ自国の安全も守れない、一定の攻撃能力を持っておけば、その攻撃力が抑止力となって、相手国も攻めてくることはなくなるとの考えには、一面、わかりやすいものがあります。

しかし、わが国が敵基地攻撃能力を持てば、攻撃を受けるかもしれない相手国は、自分を攻撃してきたら更にやり返すために、わが国を上回る攻撃力を保有することになることが必至ですから、敵基地攻撃能力の保有は、結局のところ、再現のない軍拡競争を招くことになるだけで、その行き着く先は、核の保有、核戦争、世界の破滅です。

そのような事態は絶対に防がなければならず、そのためには微力ではあっても、私たち一人一人が平和の尊さを訴え続けていく他ありません。

羽柴先生は、中井久夫先生の文章から、「『新しい戦前にしない』(平和の準備)ための覚悟は日々の生活から。一日何事もない奇跡をかみしめながら」との教訓を引き出しておられましたが、本当にそのとおりだと思います。

12月の定期検診でもがんの再発転移はありませんでした。

なかなか成果の見えにくい活動ではありますが、少し元気を取り戻してきた状況を踏まえ、来年は、9条の会の活動を始め、この2年ほど、健康上の問題で、十分取り組めなかった平和の問題に「一日何事もない奇跡をかみしめながら」もう少し積極的に取り組んでいきたい、これが来年の抱負です。

皆さん、よいお年をお迎えください。

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