吉田竜一弁護士ブログ

「働き方改革」関連法が成立-戦後最大の労働法制の大改悪は直ちに廃止すべき!

「働き方改革」関連法が6月29日の参院本会議で、与党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立しました。採決された「働き方改革」関連法案は、①正規雇用労働者と非正規労働者の不合理な待遇差を解消することや、②残業時間に罰則付きの上限規制を設け、最大でも年間720時間以内、月100時間未満などとする一方、③高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を創設することなどを柱としています。

しかし、①の正規雇用労働者と非正規労働者の不合理な待遇差を解消といっても、改正法は、職務内容、人材活用の仕組みに相違があれば、正社員と非正規労働者の賃金格差を容認するものです。安倍首相は今年1月の国会における施政方針演説で、「長年議論だけが繰り返されてきた『同一労働同一賃金』。いよいよ実現の時が来ました。雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、『非正規』という言葉を、この国から一掃してまいります」などと大風呂敷を広げていましたが、改正法は「同一労働同一賃金」を実現するものではまったくありませんし(改正法にも「同一労働同一賃金」の言葉はありません)、改正法によって非正規労働者が一掃されることもあり得ません。改正法が禁止する不合理な待遇差は、改正前の労働契約法、パートタイム労働法でも禁止されていたもので、敢えて法改正をしなければならないような内容にはなっていませんし、むしろ、このような改正を行ってしまうことで、正社員と非正規社員間の格差を固定化してしなうのではないかということが危惧されるところです。

また、②の残業時間の上限規制という点についても、改正法のもとでは、繁忙月などには月100時間の残業が合法化されることになります。のみならず、「年間720時間が上限」となったといっても、この720時間には休日労働が含まれておらず、休日労働を含めると年間960時間、1月80時間の時間外労働が合法化されることになりますが、厚生労働省が定める過労死の認定基準においては、月100時間を超える時間外労働、あるいは2か月から6か月の平均で月80時間を超える時間外労働を過労死ラインと定めているのであり、改正法は、過労死ラインを超える時間外労働を容認するという、とんでもない内容になっているのです。

さらに、③の高度プロフェッショナル制度の導入は、専門業務を行う年収1075万円以上の労働者に、年間104日(かつ月4日)の休日さえ取らせれば、何時間働かせても残業代は一切支払わなくてよいという残業代ゼロ法案であるだけでなく、理論的には月48日連続勤務や従来の時間外労働が月200時間になっても違法の問題は生じないという、まさに長時間労働、過労死を助長、蔓延させる悪法です。

政府は、同意のない労働者には適用しないとか、年収1075万円の労働者などごく一部だという説明をしていますが、使用者から適用を迫られて毅然と断ることができる労働者などほとんどいないというだけでなく、年収1075万円以上という要件は、省令で切り下げることができるもので、経団連は、かつて、年収400万円以上の労働者にこの制度の適用を考えていたことが看過されるべきではありません。

立憲民主党の石橋通宏議員は、高度プロフェッショナル制度の導入について、本会議で「『定額働かせ放題』そのもので、過労死促進につながる戦後最悪の労働法制大改悪だ」と批判されたそうですが、高度プロフェッショナル制度だけでなく、正規・非正規の格差を固定化し、長時間労働にお墨付きを与え、残業代の不払いまでも容認する今回の働き方改革、その実質が、労働者保護の観点などまったくない、専ら企業の側からみた生産性向上を実現するための働かせ方改革であることは明白です。

このような改悪法は、ただちに廃止されなければなりません。

自由法曹団の意見書が述べていることですが、今の日本に求められていることは、労働者の命と健康、権利を守る働くルールを確立することであり、そのためには、残業時間は1か月45時間、1年間360時間が上限とされなければなりませんし、正規・非正規の不合理な格差を抜本的に是正するために、労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法、そして労働基準法等に同一労働同一賃金と均等待遇の原則を明記することです(写真は兵庫民報Web版より)。

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