厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は、2019年度の最低賃金の全国平均を901円とする目安を決めました。
これが実現すれば、最低賃金は、2019年度から、東京都で1013円、神奈川県で1011円と初めて1000円を突破することになります(ちなみに大阪府の最低賃金は964円、兵庫県は899円になるようです)。
最低賃金が上がること自体、もちろん悪いことではないのですが、東京都、神奈川県だけでの1000円突破は到底手放しで喜べるものではありません。
まず、第一の問題は、地域間格差は広がる一方だということです。
諸外国では、最低賃金は全国一律に決められていますが、わが国の最低賃金は地域別(都道府県別)に決められます。
その結果、全国で一番低い鹿児島県の最低賃金は787円で、まったく同じ仕事をしても、東京と鹿児島では時給に226円もの差が生じることになりますが、鹿児島県を含む17県の最低賃金は引き上げ後も700円台のままです。
最低賃金の地域格差は15年間で2。4倍も拡大し、同じ仕事をして、同じ時間働いても、東京と鹿児島では年収で45万4000円もの差が生じるという事態になっているのです。
地域別を採用する理由として、大都市圏と地方では生計費が異なるからだという説明がなされるのが一般ですが、しかし、実際の生計費は全国どこでも大差ないことも明らかになっています。
よく東京一極集中が問題にされていますが、地方の最低賃金が文字通り最低レベルにとどまっていることが、労働者人口の大都市部への流出、地方の高齢化・過疎化、地域経済の疲弊に拍車をかける一因となっていることは明らかで、地方の活性化を図るためには、最低賃金について地域別を改め全国一律の最低賃金が定められなければなりません。
問題の第二は、最低賃金(時給)1000円という金額も、まだまだ不十分で、最低賃金は1500円でなければならないということです。
労働基準法は1日8時間、週40時間労働を原則としていますが、これを遵守した場合の1月の労働時間は約173時間です。
したがって、憲法25条が保障する健康で文化的な生活が保障されるためには、月173時間働けば十分暮らしていける賃金が保障されなければなりませんが、時給1000円では、月173時間働いても月17万3000円ですから、年収207万6000円、その年収はワーキングプア水準にとどまることになります。
わが国では、労働者の4人に1人が年収200万円以下となっています。
もちろん、中には、家計補助のために週数時間しか働いていない人、学業の傍らの小遣い稼ぎを目的としている人もいるのでしょうが、そうした人はごく一部というべきで、少なからぬ労働者が年収200万円以下のワーキング・プアとなっている原因は、正社員になりたくても非正規としてでしか働けない人たちが少なくないこと、そして最低賃金が低すぎることにあることは明白です。
最低賃金1500円となれば、月173時間働いた場合の月収は25万9500円、年収は311万4000円で、十分とまではいえませんが、何とか人並みの生活を維持できる収入が確保できることになります。
最低賃金の引き上げや中小企業支援などを訴え続ける、主に若者を中心にした市民グループ“エキタス”が、最賃1500円が実現したら何をしたいかをネットで尋ねると、「我慢せず病院に行く」「手元に残っている薬で我慢しない」「病院に行ける」「1日の食費を300円から増やす」「子どもに牛肉を食べさせられる」「長時間のバイトをしないで済む」といった声が多数集まったようです。
真面目に働いている人たちが、病気になっても病院に行けない、まともに食事もできない世の中は絶対に間違っています。
最低賃金1000円ではまったく不十分で、全国一律最低賃金1500円が早急に実現されなければなりません。
もちろん、そのためには最低賃金のアップが中小業者の経営を圧迫することのないよう、中小業者に対する支援が不可欠になりますが、戦闘機の爆買いをやめる、大企業に中小企業並みの課税をする、株で大儲けをしている富裕層への優遇措置をやめる、こうしたことで、中小企業への支援は簡単に実現できるはずです。