吉田竜一弁護士ブログ

「まさか」ではなく「またか」の勤労統計不正~消費税増税は中止しかない!

賃金や労働時間の動向を把握する厚生労働省の「毎月勤労統計調査」は、雇用保険、労災保険などを算定する、労働者にとって極めて重要な統計調査ですが、この「毎月勤労統計調査」で不正が行われていたことが明らかとなり、連日、国会で野党が追及を行っています。

この「毎月勤労統計調査」の不正、問題は2つあります。

1つは、従業員500人以上の大企業は全数調査が原則とされていたにもかかわらず、2004年以降、東京にある1400の大企業では、全数調査が行われず、500程度しか調査がされていなかったという問題です。

賃金の高い大企業が調査から省かれれば、当然に実態よりも数字は低くなることになりますから、支給される雇用保険や労災保険の額も、本来支給すべき額よりも低く抑えられてきたことになります。

2004年以降、低く抑えられたために追加給付が必要となる労働者は2015万人、追加給付に必要な額は795億円。このうち600億円は、本来支払っておかなければならない給付なのですが、195億円は追加給付のための事務費用。

不正がなければ必要のなかった195億円は、私たちが支払う税金で賄われることになります。

もっとも、この問題は、2004年以降、行われていた不正ですから、安倍内閣だけの問題ということはできません(安倍内閣が大半の期間を占めていますが)。

もう一つの問題は、2018年になって、突然、従業員500人以上の大企業について全数調査を行うようになり、そのこと自体はよいのですが、2018年の賃金の伸び率を、500人以上の大企業について全数調査を行っていない2017年の数字と比較し、2018年、実質賃金は伸び続けている、アベノミクスの成果で景気は回復しており、今秋に消費税を上げても問題はないという答弁を安倍内閣が繰り返してきたことです。

しかし、大企業について全数調査をしていない、数字が低くなるのが当然の2017年と、大企業について全数調査して、数字が高くなる2018年を比較すれば、2018年の方が高くなることは当然ですが、そのような比較が正しくないことはいうまでもありません。

2017年についても、20018年同様にデータ補正を行った上で比較すれば、野党が示した資料によれば、2018年1月から11月の実質賃金は、11か月中9か月で前年を下回っていたことが明らかとなっています(冒頭の朝日新聞デジタルのグラフ参照)。

まさにデータ偽装、賃金偽装、アベノミクス偽装との批判を免れない不正です。

賃金水準が上昇しているという偽装された数字のもとでも、多くの国民が「好景気を実感できない」「賃金が上がっていない」と感じていたことに対し、麻生財務大臣は、昨年12月、「上がっていないと感じる人の感性の問題」と、景気改善を実感できない人の感性が問題なのだという発言をしていましたが、今回の不正発覚は、多くの国民の感性が間違っていなかったことを実証するものとなりました。

それでも安倍首相は、連合の調査を根拠に、賃金は増加しているのだということを強弁していますが、連合の調査自体、対象の約7割が数字が高くなる大企業であるというだけでなく、連合の調査で明らかになっているのは物価の上昇を織り込んでいない名目賃上げ率です。連合の調査結果を実質賃金に直せば、賃上げ率は今世紀に入って最低のレベルになります。安倍内閣のもとでの賃金増が「虚構」であったことは明白です。

市田忠義共産党副委員長は、1月29日の参議院本会議での決算審議で、自民党議員の「まさかの統計偽装」という発言に、野党席から 「またか、ではないか」という、まさに寸鉄人を指すヤジが飛んだことをツィートしておられますが、昨年6月に強行採決した働き方関連法の審議においても、導入しようとしていた裁量労働制が、長時間労働、過労死を蔓延させる法案との批判を浴びた際、安倍首相は、「裁量労働制の労働者の労働者の方が、一般労働者よりも労働時間が短いというデータがある」と答弁していました。

このデータ、実は、裁量労働制の労働者には、「いつも平均して何時間働いていますか」という質問を基に「9時間16分」という1日の平均労働時間を算定しておきながら、一般の労働者には「一番長い日では、どれくらい残業しますか」という質問を基に「9時間37分」という1日の平均労働時間を算定するという、まさにいかさま的なデータで、そのことが発覚して裁量労働制の導入は断念せざるを得なくなったのですが、またまた把握した厚生労働省のデータ偽装、本当に開いた口がふさがりません。

今般データ偽装、賃金偽装が、厚生労働省の官僚が安倍内閣に忖度して勝手に行ったことなのか、内閣の指示があったのかということは、これからの国会審議で明らかにされることになるのでしょうが、少なくとも実質賃金に伸びなど見られないこと、アベノミクスの効果などないこと、景気は悪化していること、したがって、今秋の消費税増税など論外となったことが明白になっています。

消費税増税中止、待ったなしです。

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