吉田竜一弁護士ブログ

過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目になる

わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。敗戦の日から50周年を迎えた今日、わが国は、深い反省に立ち、独善的なナショナリズムを排し、責任ある国際社会の一員として国際協調を促進し、それを通じて、平和の理念と民主主義とを押し広めていかなければなりません。同時に、わが国は、唯一の被爆国としての体験を踏まえて、核兵器の究極の廃絶を目指し、核不拡散体制の強化など、国際的な軍縮を積極的に推進していくことが肝要であります。これこそ、過去に対するつぐないとなり、犠牲となられた方々の御霊を鎮めるゆえんとなると、私は信じております。 

15日、終戦から節目の75年を迎えましたが、上記の文章は、1995年8月15日、当時の村山富市首相が発表した「戦後50周年の終戦記念日にあたって」。いわゆる村山談話です。

16日の朝日新聞は、15日に村山富市元首相が「村山談話に託した想い」と題するコメントを発表し、先の大戦について「侵略ではないとか、正義の戦争であるとか、植民地解放の戦争だったなどという歴史認識は、全く、受け入れられるはずがないことは、自明の理」とした上で、「日本の多くの良心的な人々の歴史に対する検証や反省の取り組みを『自虐史観』などと攻撃する動きもありますが、それらの考えは全く、間違っています」と指摘。「日本の過去を謙虚に問うことは、日本の名誉につながるのです。逆に、侵略や植民地支配を認めないような姿勢こそ、この国を貶めるのでは、ないでしょうか」と呼びかけたことを報じています。

村山富市元首相のコメントでは、村山談話が、ドイツのワイツゼッカー元大統領の議会演説に影響を受けて作成されたものであることも明らかにされていますが、2015年1月に亡くなられたドイツのワイツゼッカー元大統領が、第2次世界大戦終戦40年を記念する議会演説で「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目になる」と述べたことは余りにも有名で、この歴史を直視するよう国民に促した言葉は、ドイツでは、ナチスによるドイツの戦争責任を語る際の規範となっています。

ドイツが周辺諸国と完全に溶け込み、欧州のリーダー的存在となれていることについては、ドイツが戦争責任と正面から向き合っていることで周辺諸国から信頼を得ていることが相当影響していることは明らかです。

わが国では、15日、小泉進次郎環境相ら4閣僚が4年ぶりに靖国神社を参拝しました。小泉進次郎環境相は、「国のために尊い犠牲を払ったことに敬意を払うのは当然だ」とコメントしているようですが、このようなコメントは、靖国神社にA級戦犯が合祀されていることを覆い隠した極めて不適切なもの、過去に目を閉ざしているという批判を免れるものではありません。

86年8月、当時の自民党の後藤田正晴官房長官は、「我が国の行為に責任を有するA級戦犯に対して礼拝したのではないかとの批判を生み、ひいては、わが国がさまざまな機会に表明してきた過般の戦争への反省とその上に立った平和への決意に対する誤解と不信さえ生まれるおそれがある」と述べて、「8月15日には、内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝は差し控えることとした」との談話を発表していますが、閣僚の靖国参拝はこの談話をも踏みにじるものでもあります。

朝日新聞によると、参拝した衛藤晟一沖縄北方相は、中韓の反発が予想されるとする記者団からの質問に、「中国や韓国から言われることではない。そういう(報道機関の)質問の方が異常」だとコメントしたようですが、86年の後藤田正晴官房長官の談話、95年の村山談話、そして今年の村山元首相のコメントを精読することをお勧めします。

先の大戦は、アジア・太平洋各国に2000万人以上の死者をふくむ惨害をもたらしました。大きな被害を受けた中国、韓国がA級戦犯を合祀した靖国神社への閣僚の参拝を憂慮するのは極めて自然なことではないでしょうか。こんなことを繰り返していて日本がアジアで信頼を得て、アジアでリーダーシップを発揮することができるようになるとは思えません。

10年程前、東京出張で時間があいて、一度、靖国神社に行ったことがありますが(もちろん参拝はしていません)、靖国にはA級戦犯が合祀されているというだけでなく、その付属施設である遊就館には、太平洋戦争を「正しい戦争」だと主張する展示物、ビデオがたくさん置かれています。

不戦の誓いをするに相応しい場所であるなどとは、到底、いえません。

(アイキャッチ画像は広島県提供のものを使用)

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