吉田竜一弁護士ブログ

2011.3.11 東日本大震災から10年

2002年に日本評論社から発行された「自由法曹団物語(上)」の「災害の現場に立つ―阪神・淡路大震災」にはつぎの一節があります。

「兵庫県内では、尼崎市、神戸市、明石市に事務所を持つ弁護士が事務所や自宅に大きな被害を受けた。団支部の事務局は神戸市内の神戸総合法律事務所にあったが、市内の各事務所は建物の損傷がなくても内部は大混乱、電話やFAXも普通となっていた。団支部の連絡先を姫路市内の姫路総合法律事務所に移して、団本部との連絡や情報集約の拠点とした。団員竹嶋健治が姫路から電話をしても神戸市内には通じず安否はなかなかつかめなかった。1月22日、姫路からの救援隊が神戸市内に入り、不在の事務所には『頑張れ! 全国の団員が心配しています。自由法曹団 姫路総合』と書いた張り紙をして激励した。1月23日には、連絡がつきだし、地元の団員が法律相談活動を課ししているのを確認した。竹嶋は『なかなかしぶとやっちゃ』と地元団員の素早い復興への取組みに感心し、また安堵した。」

東日本大震災が発生した直後から関西3府県(大阪、京都、兵庫)の弁護士会、札幌弁護士会、青森県弁護士会が岩手・三陸海岸の法律相談に弁護士を派遣することを決め、岩手県弁護士会の弁護士と一緒に法律相談を行った際(東北新幹線が不通となっていたため東京から岩手県に入ることができず、飛行機で花巻空港に入るルートを持つ弁護士会と北から岩手に新幹線で入ることが可能な青森県弁護士会が岩手県弁護士会に協力しました)、5月に釜石で法律相談を担当し、7月に自由法曹団が行った陸前高田市、大槌町の現地調査に参加したのも、阪神淡路大震災のときの竹嶋弁護士の迅速な行動を見て、裁判をすることだけが弁護士の活動ではないという思いを強くしていたからです。

(南三陸町・防災庁舎)

2011年に2回三陸海岸に入ったのを含め、これまでに被災地を7回訪れています。

2017年3月、やはり自由法曹団の行った原発事故被災地調査に参加し、飯館村、南相馬市、浪江町等を訪問してから被災地に入れていませんが、三陸海岸を訪れたときは、津波に流されて町がなくなってしまっている状況に息をのむとともに、何回訪れても復興が遅々として進んでいない状況に、いつも「政府は何をしているのだろう」という思いを強くしていました、

(宮古田老地区・たろう観光ホテル)

また、福島を訪問したときは、浪江町役場周辺のように町はそのまま震災前と同じ状況で残っており、この年の3月に帰還困難区域の指定も解除されたのに、ほとんど帰って来る人がおらず、時間が止まったかのように人の姿をほとんど目にすることができない地域があることを改めて認識し、「福島は完全にブロックされている」などと唖然とするような発言で誘致した五輪のスローガンが「復興五輪」などとされていることに感じていた違和感を一層強くしました。

東日本大震災が発生した年の総会で当時の菊池絋団長は、震災後に進められようとしている復興が「創造的復興の名のもとに、この災害を金儲けの機会にしようとする勢力に道を開き、東北の人々の忍耐強さをよいことに、この人々を放置し、棄てようとしている方向」だと批判されておられましたが、この10年、政府のとってきた復興政策は、専ら経済的な復興に重きを置いたもので、被災者の方々の暮しに目を向けた、被災地、そして被災者の方々に寄り添ったものとは言い難いものと言わざるを得ません。

(大槌町役場)

もちろん、被災地に寄り添うというのは簡単です。

本当に、壮絶な悲しみに襲われ、極めて苛酷な状況の中で生活していかなければならない被災者の方々の悩みは現在でも極めて深刻なものであると思われ、それは私たちには真の理解はできないことなのかもしれません。

(石巻・大川小学校)

私自身、被災地を訪問する都度、何をすればいいのか、何ができるのか、いつも忸怩たる思いをしており、きちんとした答えはできていないのですが、ただ、不十分であっても、少しでも被災者の方々の不安を受け止めてあげることはできる筈で、そのために、被災地に訪れることは決して無駄なことではないと考えています。

(常磐自動車道・ならはPAに設置されていた線量計)

震災10年目の今年は3月にもう一度被災地を訪れるつもりだったものの、コロナ禍のもと、今年は残念ながら被災地訪問は断念せざるを得ない状況ですが、コロナが収束すれば、必ずもう一度被災地を訪れるつもりです。

被災地は、今日、10回目の3月11日を迎えました。

(陸前高田・奇跡の一本松)

弁護士会から派遣されて2011年5月に釜石・嬉石地区で法律相談を担当した際、避難所には「Kizynaメッセージfrom兵庫TOあなたへ」「神戸では震災後みんなでひまわりを植えました」という文字が印刷された便せんに小学生の書いた励ましの手紙が何通も掲示されていましたが、阪神淡路大震災を経験した兵庫県の一人として、これからも寄り添う気持ちだけは忘れないでいたいと思っています。

(アイキャッチ画像は2011年5月、法律相談で訪れた時の釜石市嬉石地区で撮影したもの)

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