JA全農グループの飼料メーカーである科学飼料研究所の龍野工場で働く、非正規の嘱託契約社員、疑似限定正社員扱いされている年俸社員ら15名の労働者が、賞与や昼食手当等が支給されないのは旧労働契約法20条等に違反するとして科学飼料研究所に総額約1億4000万円の賠償を求めた訴訟で、3月22日、神戸地裁姫路支部は、嘱託契約社員3名に対する住宅手当、家族手当の不支給を違法として190万円の賠償を科学飼料研究所に命じたものの、その余の請求を全て棄却する判決を下しました。
翌日の神戸新聞(姫路版)は、「手当の一部支払い命令」との見出しで判決を報じていますが、認容率は請求額の約1.4%に過ぎず、全面敗訴といっても過言ではありません。
1985年に655万人だった非正規労働者は、2016年には2016万人まで膨れ上がり、全労働者の5人に2人は非正規労働者という状況です。
非正規労働者の中には、正社員とほとんど同じ仕事をしている人が少なくありませんが、同じ仕事をしているのに、わが国の場合、非正規労働者の賃金は正社員よりも格段に低く、さらに、そこに男女格差が加わるという状況にあります。
にもかかわらず、わが国では同一労働同一賃金原則を定めた法律は存せず、正規・非正規の賃金格差はほとんど野放しにされてきたのですが、2013年の労働契約法の改正により、20条で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件が禁止されることになりました。
もっとも、労働契約法20条は、①職務の内容、②人材活用の仕組みが異なれば、格差を容認する規定で、同一労働同一賃金原則そのものを定めた規定ではなく、しかも、現在の職内容が同一でも、将来、職務の内容が異なる可能性があれば、職務の内容は同一ではないなどという解釈がまかりとおってきたため、この規定のもとでもなかなか格差を是正することは困難をきわめていたのですが、それでも正規・非正規の格差解消を目的とする労働契約法20条裁判が全国各地で起こされ、全国の非正規労働者、労働組合、労働弁護士の奮闘により、2018年のハマキョウレックス事件の最高裁判決で、そして2020年の日本郵政事件の最高裁判決で、作業手当、給食手当、扶養手当等、各種手当等の不支給措置が違法とされました。
このこと自体、非常に大きな成果ではあります。
しかし、手当の不支給措置が違法とされるだけでは、認められる賠償額は労働者1人当たり数十万円程度に過ぎず、これでは正規・非正規の格差の解消が図られることにはなりません。
正規・非正規の格差を抜本的に解決するには、基本給、そして賞与、退職金の不支給措置あるいは低額支給が違法であるとの判断を確立させることが不可欠です。
ところが、最高裁は、昨年10月の大阪医科薬科大学事件判決、メトロコマース事件判決で、賞与、退職金の不支給を違法とした大阪高裁判決、東京高裁判決を取消し、非正規社員に対する不支給措置を不合理な差別ではないとの判断を行いました。
経営側に配慮した、そして非正規労働者には極めて冷たい判断といわざるを得ません。
科学飼料研究所の事件では、請求の80%以上を賞与が占めており、賞与の不支給措置が主戦場となっていた事件といってよいところ、大阪医科薬科大学の最高裁判決が下されたことで、厳しい判決は予想されていたところではありましたが、最高裁も、賞与、退職金の不支給が不合理な差別として違法となる場合があることを全面的には否定しておらず、最高裁判決のもとでも賞与の不支給措置は違法と判断されなければならない旨を詳細に主張したのですが、その主張は裁判所に届くことはありませんでした。
賞与の不支給措置が不合理でないと判断されただけでなく、昼食手当についても、その実質は給与の調整給であるという唖然とすべき判断のもと、その不支給措置が違法でないと判断されてしまいました。
近時の労働契約法20条裁判の中では突出してひどい判決と言わざるを得ません。
大阪民法協は、昨年に下された最高裁判決を受けて、「最高裁が経営者の経営判断に偏重し、低賃金で苦しむ非正規労働者の実態に目を背け、これほどまでに広がった格差の是正について踏み込まなかったことは、旧労働契約法20条の制定趣旨に反し、パート有期労働法の施行など格差是正の流れに大きく水を差すものとして、強く非難されなければならない。今後の真の均等待遇の実現、格差是正の運動において必ず乗り越えなければならない大きな課題である」との声明を発表していますが、今回の科学飼料研究所事件の神戸地裁姫路支部判決も、強く非難されなければならない、そして、必ず乗り越えなければならない判決と言えます。
原告は15名全員が不当判決に屈することなく、大阪高裁に控訴することを決めました。
15名全員とともに、もう一度頑張らなければなりません。
新年のブログにも書きましたが、負けても勝つまでやります。
尚、2018年に成立した働き方改革一括法では、パートタイム労働法を改正して、パートタイム・有期雇用労働法を制定するにあたり、労働契約法20条を削除してパートタイム労働法8条に統合する法改正も行われているところ、本年4月1日から大企業だけでなく中小企業にも適用されることになるパートタイム・有期雇用労働法8条では、基本給、賞与その他の待遇についての不合理な格差は許されない旨が明記されています。
この法律にも旧労働契約法20条同様、様々な問題があるのですが、それでも使いやすくなっている面があることも間違いなく、このパートタイム・有期雇用労働法8条をフル活用して、正規・非正規の格差解消のために、労働組合、労働者は奮闘しなければなりません(正社員も、低待遇の非正規労働者を放置しておけば、正社員の待遇も十分に改善されることはないことを十分自覚すべきです)。