岸田首相は衆議院本会議で行った施政方針演説で、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と語りました。
戦後230万人ぐらいあった年間の出生者数は2019年には89万人にまで減り、昨年度の出生者数は80万人を割ると言われています。
結婚するかどうか、子どもをつくるかどうかは、それぞれの個人が決めることで、周りがとやかくいうことではありませんが、問題なのは、結婚したい、子どもが欲しいと考えているのに、経済的に、結婚できない、結婚しても子どもをつくる余裕のない若者が増えていることでしょう。
麻生副総裁は、「少子化の最大の原因は晩婚化」と述べたようですが、そのような分析だけでは、結婚しない若者が悪いということにもなりかねず、極めて不十分です。晩婚化が進んでいるというのであれば、その原因が、給与が安くて結婚できない、夫婦共働きでなければ生活できず、子育てする余裕が時間的にも経済的にもないという若者が相当数増えているということまで踏み込む必要があると思います。
だとすれば、実効的な少子化対策を講じようというのであれば、出産給付一時金や児童手当等の各種手当を増額するというだけでは不十分で、返還の必要のない給付型奨学金を設ける等、高い教育費をどうにかするための施策とともに、若者の貧困化を解消するために、労働者に対して大幅な賃上げを実現することが必要不可欠となることは自明です。
特に、派遣、パート、期間雇用といった非正規で働く人たちの給与を大幅に上げなければなりません(基本的には派遣等の非正規労働は、本当に短時間労働だけを望む一部の人を除き、解消されるべきですが)。
1985年には655万人だった非正規労働者は、2019年には2165万人まで増え、いまや労働者の5人に2人は非正規労働者ですが、非正規労働者の賃金は、同じ仕事をしていても正社員よりも相当低く、正社員の6割ぐらいしかないという実態があります。
特に、未曽有の物価上昇が生じている今日、ここをどうにしないと、少子化は抜本的に解消されないのではないでしょうか。
先日、ユニクロを経営するファーストリフティングが正社員の給与を最大4割あげることを発表しました。そのこと自体が悪いことだとは言いません。しかし、この5年間で非正規の数を一番増やしてき会社がファーストリフティングです(約3万7000人増加させたと言われています)。非正規を置き去りにして、正社員の給与を増やすだけでは、正規・非正規の格差が広がるだけです。
正規だけでなく、非正規として働く人たちの賃上げを実現して、正規・非正規の格差をなくす、最低賃金を全国一律で時給1500円にすることなどが早急に必要となると思われますが、岸田首相は、ここでも経団連や大企業に賃上げをお願いするだけで、具体的な賃上げの手段を講じようとはしていません。
しかし、お願いするだけでは多くの企業が大幅な賃上げを実現してくれないことは明らかですし、中小企業の経営者との関係では、このコロナ禍の中で、大変な思いをされているところ、お願いされても、どうしようもないところが少なくない筈です。
賃上げの原資をつくろうとすれば、大企業に増税するとか、そして内部留保に手をつけることが不可欠です。
大企業はコロナ禍の中で内部留保を増やし続けてきました。
10年前には300兆円強だった内部留保は、その後、増え続けて、昨年は約500兆円になっています。
最低賃金時給1500円を実現するのに必要な原資は約40兆円といわれていますから、内部留保の1割程度に手を付けるだけで、一定の効果的措置を講じることができます。
しかし、岸田政権は、賃上げのために内部留保に手を付けるということは絶対に言いません(内部留保に手をつけて、これを国民に還元するべきだということを正面から唱えているのは日本共産党だけだと思います)。
一方で、岸田政権、防衛増税のための大企業増税を考えているようですが、そんなことをすれば、喜ぶのはアメリカだけで、賃上げの実現などとてもできない話になってしまいます。
防衛増税を最優先する岸田政権のやり方は厳しく批判されなければなりませんし、防衛増税のために消費税や所得税まで増税することなど言語道断といわなければなりません。
政治は、アメリカや大企業のためではなく、国民のために行われるべきものです。