吉田竜一弁護士ブログ

今年のノーベル平和賞は被団協に

10月11日、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)へのノーベル平和賞の授与が発表されました。 

ノーベル賞委員会は、被団協による広島と長崎の原爆生存者による草の根の運動が、核兵器のない世界を達成する努力、また目撃証言を通じて核兵器が二度と使われてはならないということを身をもって示してきたとして、「日本被団協と他の被爆者の代表たちによる並外れた努力は、核のタブーの確立に大きく寄与してきた」ことを受賞理由として述べています。

核廃絶のための運動の先頭に立ってきた少なからぬ先人が亡くなった今となっての受賞は、遅きに失したといわざるを得ないと感じる点もあるのですが、それでも、ウクライナやパレスチナ自治区ガザで戦闘が続き核兵器が使われるリスクが現実味を帯びている状況下での受賞は、大きな意味があると思います。

現在でも、核廃絶を訴えるだけではわが国の安全保障は守れないとして核抑止論を正当化する声が少なくないようで、石破首相も、「核廃絶への思いは変わらない」と述べながらも、「現実として抑止力は機能している」ということを述べているようです。

しかし、今年の8月6日、広島・平和記念公園での平和記念式典で、湯崎英彦知事が述べた、「人類が発明してかつて使われなかった兵器はない。禁止された化学兵器も引き続き使われている。核兵器も、それが存在する限り必ずいつか再び使われることになるでしょう。私たちは、真の現実主義者にならなければなりません。核廃絶は遠くに掲げる理想ではないのです。今、必死に取り組まなければならない、人類存続に関わる差し迫った現実の問題です」との言葉を思い起こせば、核抑止論では、いずれ核が使用される事態を回避することはできないと言わざるを得ません。

前回のブログで、2006年2月6日発行の兵庫県弁護士会姫路支部報に投稿した「『はりま弁護士九条の会』結成!!」について触れましたが、ここでは、司法試験受験時代に憲法9条を護らなければならないと感じるようになった理由として、受験時代に基本書として使用していた佐藤幸治教授の「憲法」の次の既述を読んだからだと書いています。

わが国は、一切の戦争を放棄し、それに徹する趣旨から、戦力を保持しないこと、また交戦権を認めないこと、を憲法を通じて宣明した。このことは、わが国が外国から戦争をしかけられず、侵略されないことを前提としている。現実の国際環境は憲法の立脚する理念と適合するものとは必ずしもいい難く、わが国としてもそれに対応した適切な判断をして行かなければならないが、理想的な国際環境の形成に究極の目標をおいて不断に努力することが憲法上の義務である。再びいえば、戦争は立憲民主制の維持保全にとって最大の敵である。憲法に掲げる理想を追求していくことが、わが国における立憲民主制の維持発展にとって不可欠の関係にあることが絶えず確認されていなければならない。

佐藤幸治「憲法」は、その初版が1981年に発行された本ですが、そこに書かれていることは、今の時代にも、そのまま当てはまるものです。

平和なくして私たちの生活は守れませんが、核抑止論では平和は守れません。

何回もブログで述べていることですが、唯一の被爆国である日本には核廃絶の先頭に立つ責務があると思います。

その責務を身を果たしてきた被団協と被爆者の方々に改めて敬意を表します。

(アイキャッチ画像は2024年4月に広島訪問した際に撮影したもの)

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