吉田竜一弁護士ブログ

イチケイのカラス-興味深く読めました!

漫画を読むのも嫌いではなく、「ジャイアント・キリング」、「ダイヤのAⅡ」、「3月のライオン」「信長のシェフ」など、新巻が出れば必ず購入する漫画も少なくありませんが、8月23日に第1巻が発売された「イチケイのカラス」は、帯に記された推薦の言葉のとおり、「内容は固いのに読み心地は柔らかい」「正義・誠意・人情」「人が人を裁く難しさ」を感じさせてくれる漫画でした。

舞台は武蔵野地方裁判所(架空の裁判所です)第一刑事部(イチケイ)。

主人公は第一刑事部の裁判官の面々。左陪席の坂間真平、右陪席の入間みちお、駒沢部長(裁判長)です。

30件程も無罪判決を書きながら、一度も控訴審で破棄されたことがない駒沢部長のモデルは、多分、業界では著名なあの元裁判官だと思うのですが、駒沢部長が自分で作った冊子に書いた「刑事事件のほとんどは、被告が罪を認めているいわゆる自白事件である」「否認事件がまれにあったりすると、裁判官によっては『罪を認めないとはけしからん!』という気持ちからか、ムスッとしたりなげやりになったりする場合もあると聞く。そのような態度で被告人から本当のことを聞き出すのは難しいと思う。私は否認された場合、むしろ『ヤッタ!!』と喜ぶようにしてる」との言葉や、裁判の冒頭で、被告人に「本当にやっていないならば必ず言ってほしいと思います」との言葉は、弁護士にも、ずしりと響くものがありました。

現在、被告人国選を含めると、年間で20件前後の刑事事件を担当しているのですが、ほとんどの事件は自白事件です。そのためか、稀に最初に接見した際に否認されると、事案によっては「本当かな?」と懐疑的になったり、「この忙しいときに否認か」と思ったりすることが、正直、ないではないのですが、そのような態度が刑事弁護人として間違っていることは言うまでもありません。被疑者、被告人の言い分に真摯に耳を傾けることが刑事弁護の出発点であることは、言われなくともわかっている筈のことなのですが、被疑者、被告人の言葉を軽んじていることはないか、駒沢部長の言葉に自戒させられました(漫画なんかで自戒するなと怒る人もおられるかもしれませんが)。

この漫画、「まったく新しいリーガル・エンターテインメント」という触れ込みで、弁護士が主人公の漫画には、「あんたの代理人」(高井研一郎著)、「弁護士のくず」(井浦秀夫著)などがありますが、裁判官が主人公の漫画なんかあったかな、と考えていたら、「家栽の人」(毛利甚八作・魚戸おさむ画)という名作があったことを思い出しました。

もっとも、「家栽の人」は桑田義雄という家裁裁判官が文字通り主人公の漫画でしたが、「イチケイのカラス」は、主人公である合議体を構成する裁判官を通じて、裁判所という組織や現在の刑事裁判が抱えている問題点にまで結構踏み込んだ漫画になっており、そこが確かに新しいところだと感じました。

特に、弁護士から裁判官になった右陪席入間みちおの言葉は、おそらく刑事弁護に携わる多くの弁護士が日頃から思っていることと、そう距離はないものと思いますが、裁判官の立場からすると別の感想があるのかもしれません。

SNSで感想を発しているのは、圧倒的に法曹関係者が多いようですが,著者である浅見理都さんは、最後に「刑事裁判に興味ない人にもよんでもらえるようがんばります」と述べておられます。

監修がしっかりしているからということもあるでしょうが、私自身、刑事事件と無縁の普通の方々にも十分理解してもらえるわかりやすい漫画になっていると思いましたし、是非、一般の人たちにも読んで欲しい漫画だと思いました。

12月に発売予定の第2巻がいまから楽しみです(法服が黒いのは、何物にも染まらない、中立の象徴といった意味もあり、カラスは法服の意味だと思っていましたが、どうももう少し他の意味もあるようで、この点も第2巻で明らかになるのかもしれません)。

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