吉田竜一弁護士ブログ

災害、コロナに悪乗りした改憲議論はすべきではない!

2009年の民主党政権の誕生により、一度は頓挫したと思われた憲法改正議論が再び息を吹き返したのは2011年3月の東北大震災のときでした。

未曾有の大災害のもとでも、被災地の人々は極めて理性的に行動し、様々な問題に対しても法律で十分に対応できていたのに、自民党の国会議員の中から「憲法に緊急事態条項がないのは欠陥だ」という意見が上がるようになったのです。緊急事態の最たるものは戦争であり、この緊急事態条項が9条改憲とセットになっているものであることはいうまでもありません。

この時の状況を、9条の会の発起人の1人であった奥平康弘教授が、「眠っていた亡霊が再び起き出した」と言われていたことを思い出します。

年が明け、新型コロナウィルスの感染拡大が懸念される状況の中で、また同じ議論が起きるのではないかと思っていたら、案の定、自民党の伊吹文明元衆院議長が1月30日の二階派の会合で、新型コロナウイルスの感染拡大について「緊急事態の一つの例。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」などと言い出し、これに呼応してか、自民党の松川るい参議院議員も、「憲法に緊急事態条項があれば!一部野党も逃げずに憲法改正の議論をすべき」とツィートしているだけでなく、2月1日には自民党の下村博文選対委員長(前改憲本部長)も、「人権も大事だが、公共の福祉も大事だ。(国会での改憲)議論のきっかけにすべきではないか」と講演の中で述べています。

この松川るいという議員、感染防止のための高齢者対策が議論されている参議院予算委員会で、「高齢者は歩かないから」などとヤジり、謝罪に追い込まれることになる議員で、所詮、その程度の人だと思うのですが、大災害や感染症の拡大に便乗して憲法改正を声高に唱える自民党の人たちをみると、今般のコロナ対策の遅れも、マジに国民が「憲法改正して緊急事態条項いれるしかない」と錯覚するまで、感染拡大を放置しようとしていたのではないかとさえ思いたくなってしまいます。

来週には、新型インフル特措法の改正案が国会を通過する見込みのようです。

改正案は、首相が「緊急事態宣言」をすることによって、国民の基本的人権の多くを制約できるものとなっており、最大で3年間は集会も開けなくなってしまうなど、その危険性は十分認識しておく必要はありますし(日本弁護士連合会はインフル特措法の制定自体にも反対していました)、それ故、改正案は国会でも十分審議されるべきで、拙速な改正をすることがあってはなりません。そもそも現在安倍首相がとっている対応の根拠がインフル特措法にあることは安倍首相も認めていることで、そうであれば改正の必要性にさえ疑問符がつくことになります。

ただし、今回の政府の対応は、大災害や新型ウィルスによる脅威に対しても憲法を改正する必要など全くないこと、法律によって十分に対応できることを自認するものであることは確認しておく必要があるのではないでしょうか。

2016年3月15日の東京新聞は、「命救うのに改憲は必要ない」との見出しで、震災を口実に改憲議論をすることに違和感を訴える被災地の首長の声を集めていましたが,世界一民主的と言われたワイマール憲法の中で誕生したヒトラー率いるナチスは、ワイマール憲法の中にあった緊急事態条項を駆使して、ワイマール憲法を蹂躙し、非人道的な独裁政治を確立していったという歴史を忘れてはなりません。日本国憲法は、緊急事態条項を入れ忘れたのではなく、独裁に通じる緊急事態条項は有害だとして敢えて入れていないのです。

そういうことを考えていたら、本日の朝日新聞で、自民党の石破茂議員が、自身のブログに「自民党が若年層を対象として作製した漫画を中心とする小冊子シリーズの第6巻『憲法改正特集』を一読して、嘆息を禁じ得ません。被災地の高齢女性から『水道が止まったときに女性自衛官がペットボトルの水を届けてくれてとても嬉しかった』との話を聞かされた女子高校生が、『そんな女性隊員の活動が憲法に違反しているかもしれないなんて悲しくなるわ』と語るのですが、本当にそれが憲法改正の最も重要な理由なのでしょうか。自衛隊の主たる任務であるはずの防衛出動は一コマしか出てこないことも併せて、これが自民党の憲法改正に臨む姿勢なのかと思うと、それこそ悲しくなります」と書かれていることを知りました。

災害救助に頑張る自衛隊の活動を否定する人などどこにもいないでしょう。

しかし、安倍首相が唱える9条改憲によって憲法に明記されることになる自衛隊は、災害救助に汗水流して働く自衛隊ではありません。海外に出て行って米国と一緒に戦争することができる自衛隊です。そのような本音を隠して、「災害救助で頑張る自衛隊が憲法に明記されていないのは可哀想」などとして9条改憲の支持を訴えるやり方は姑息としかいいようがありません。

多分、私と石破茂議員とは改憲や国防に関する考え方は大きく異なると思うのですが、問題の本質を覆い隠して改憲を実現しようとするやり方に違和感を覚えるという点では同意見になるのだと思います。

石破茂議員は、新型コロナに便乗した改憲議論についても、「かえって議論が混乱することになるので、今は避けるべきだ。今、憲法の話をすると、悪乗りととられかねない危険性があり、慎重にやっていかなければならない」と話しておられるようです。

中島岳志東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授が「安倍内閣ではコロナ危機を収束できない。今は『石破内閣』しかない」と述べられていることに賛同する人が少なくないようですが、石破茂議員とは考えを異にする点も多々あるものの、中島岳志教授が言われていることについては、「自民党の中で」という限定付きであれば、私も基本的に「そうなのだろう」と考えています。

(写真は2012年9月に撮影した岩手・陸前高田市の奇跡の一本松)

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