吉田竜一弁護士ブログ

日航機墜落事故から36年~クライマーズ・ハイを読んで考えた

36年前の今日(1985年8月12日)、日本航空123便が群馬県多野郡上野村の山中に墜落し、乗客520名が亡くなられるという大惨事が発生しました。

当時、司法試験浪人生だったのですが、事故発生後の数日は勉強も放り出してテレビにかじりつき、生存者が救出されたときには、思わずテレビの前で拍手していたことを思い出します。

さて、7月に10日ほど入院していたところ、術後の血液検査の結果が微妙で、経過観察のために予定よりも2日伸びた入院となったのですが(結果的には特に問題ありませんでした)、痛みもなく、至って元気で、病室では持ち込んだ本を読むというより、専らパソコンで起案をしていました。

それでも起案疲れの時間を利用し、3冊持ち込んだ本のうち1冊だけは読破したのですが、読んだのは、少し古い作品になりますが、2003年に発表された横山秀夫氏の「クライマーズ・ハイ」。

日航機事故を地元新聞記者の目線から描いた作品です。

横山秀夫氏の作品としては「半落ち」「臨場」「64」といったミステリーがあり、特に「半落ち」は一気に読めた作品でしたが、この「クライマーズ・ハイ」は日航機事故を地元新聞記者の目線から描いた社会派小説といえる作品で、「ノースライト」といい、単なるミステリーとはいえない社会派の作品も描ける横山秀夫氏には脱帽する以外にありません。

日航機墜落事故を扱った小説としては、「クライマーズ・ハイ」よりも前に発表された山崎豊子氏の名著「沈まぬ太陽」があり、これは出版後間もなく読破し、映画も観たのですが、不覚にも「クライマーズ・ハイ」が日航機墜落事故を扱った小説だということは知りませんでした。2003年は網膜剥離を患い長期入院し、あまり読んだり観たりすることができなかったことの影響もあったのかもしれません。

それはともかく、横山秀夫氏が元新聞記者であるからこそ書けた作品なのではないかと思いますが、とにかくよかった(よかった、としか書けないところに文才のなさがあらわれていますが)。

退院してから、映画のDVDも購入して観ましたが、映画もなかなかのもので、なぜ、今まで読みも観もしなかったのか後悔するばかりです(まあ、今般、小説にも映画にもふれることができたので、よしとします)。

私が大学の2年生頃までは新聞記者になりたいと本気で考えていたことは、ブログにも書いたことがありますが、「クライマーズ・ハイ」を読むと、新聞記者になっていたとしても、大きな事件と向き合ったとき、組織に対して自分を貫くことができたのか、あまり自信がありません。しかし、そんなことを言っていたのでは弁護士の仕事も務まらないことになり、信念を貫くことの大切さを再確認した次第です(弁護士の場合、縛られる組織はないので、新聞記者よりは自由だということになりますが)。

ところで、「沈まぬ太陽」の主人公は日航の社員、労働組合の活動家で、「沈まぬ太陽」と「クライマーズ・ハイ」は、まったく別の作品ですが、両方の作品の共通点として気づいたことは、亡くなられた1人の乗客の方が、墜落していく機内の中で家族に宛てて書いた遺書が引用されていることです。

「クライマーズ・ハイ」の映画では、墜落現場に入った堺正人氏が主役の堤真一氏にこの遺書を読むシーンもあったのですが、墜落していく機内の中で、あれだけの家族に対する熱い思いが語られている遺書は本当に泣けます。どの視点から日航機墜落事故を捉えても、あの遺書は避けて通れなかったということなのでしょうか。

改めて事故で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、二度と、同じような事故が繰り返されることのないよう、空の安全が確立されることを願わざるを得ません。

最後に一言。

「クライマーズ・ハイ」に登場する記者たちにふれると、昔の新聞記者はこれぐらいの気構えを持った人たちばかりだったのだろうと思いますが、現在の新聞記者の中にどれだけ同じような気構えを持った記者がいるのだろうかということも考えざるを得ません。

もちろん、権力や組織に媚びることなく、信念を貫いている記者の方も少なくないと思うのですが、「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏が、五輪開催に批判的だった日本のメディアが開幕後は一転して日本選手のメダルラッシュ報道一色となったことについて「日本の報道は、滅んだのか」と問題提起していることには私も全く同感で、このような姿勢が妥当なのか、メディアはしっかりと検証しなければならないと思います。

 

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