吉田竜一弁護士ブログ

自衛隊の憲法明記で9条は変質する!

5月3日の毎日新聞は、憲法記念日に合わせて実施した世論調査で、9条を改正して自衛隊の存在を明記することに賛成は51%で、反対の30%を上回った旨を報じていますが、2019年の毎日新聞の世論調査では、反対28%、賛成27%と、反対が僅かならも賛成を上回っていたもので、今回のこの結果に個人的にはちょっとビックリしています。

自民党が2012年に発表した自民党憲法改正草案においては、9条2項を改正して集団的自衛権の行使を容認するだけでなく、新設される9条の2で、自衛隊を「国防軍」となり、わが国が軍隊を保持することが明記されていましたが、これが世論調査でも不評で、朝日新聞は2012年12月3日付朝刊で、同社の世論調査(電話)の結果、憲法を改正して国防軍にすることに「反対」の回答者は51%で「賛成」26%を上回った、と報じていました。

そこで出てきたのか自衛隊明記論です。

安倍前首相は、2017年5月3日の改憲派の集会に寄せたビデオメッセージで、「『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です。 私は、少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、「自衛隊が違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます」と述べました。

安倍前首相は、自体隊を憲法に明記しても9条の解釈は変わらないとも述べていたのですが、安倍前首相が憲法に明記しようとした自衛隊は、災害救助に汗水流して働く自衛隊ではありません。

2015年の強行採決で成立させた安保関連法案(戦争法)のもとで、集団的自衛権の行使が認められ、米国と一緒に海外で武力行使をすることが認められた自衛隊です。

そんな自衛隊を憲法に書き込んで、9条の解釈が変わらない筈がありません。

防衛費は際限なく増大し(社会保障はさらに削減されることになるでしょう)、徴兵制度は違憲ではなくなり、軍事裁判所も設置されるなど、徹底した平和主義を定める9条、特に2項は死文化し、わが国が本格的に戦争する国になっていくことは明白です。

2015年に成立した安保関連法制(戦争法)のもとで、自衛隊は既に集団的自衛権を行使できる存在になっているのですが、立憲野党や平和を願う広範な市民の頑張りにより、集団的自衛権行使のために、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」であることという要件が課されましたが、そもそも他国に対する攻撃で国の存立が脅かされた例などそもそもなく、戦争法は集団的自衛権の容認に積極的な側からすると、極めて使い勝手の悪いものになっています。

自衛隊が自由に集団的自衛権を行使できるようにするには憲法9条を改正するしかありません。安倍前首相の唱える自衛隊明記論は、単に自衛隊に誇りを与えるためだけのものではなく、まさにそのような目論見のもとで唱えられているものに他なりません。

戦争法が強行採決された当時でも、アーミテージ米国元国務副長官は、「日米共同で何かやろうとすると、必ず憲法9条がバリケードのように道を塞ぐ」などと述べていましたが、9条改憲は米国の思惑を実現するためのものでもあります。

しかし、2015年1月に内閣府が実施した世論調査によれば、自衛隊が存在する目的について、もっとも多かった回答は「災害派遣」の81.9%で、防衛力についても、増強を求める国民は29.9%に過ぎないのに対し、現状維持を求める国民はほぼ倍の59.2%でした。

自衛隊が国民の支持を得られているというのであれば、それは東北大震災、九州集中豪雨等でのスコップとシャベルを持った活動であり、機関銃を背負った活動などではありません。

自衛隊が海外で、殺し殺される活動に従事することを多くの国民は望んでいないのです。

憲法9条への自衛隊明記論は、多くの国民が反対していた、自衛隊を軍隊にすることを明記した自民党の憲法改正草案の9条改正案と、その本質において何ら異なるものでないこと、むしろ、やり方としては本当の狙いを覆い隠した極めて姑息なやり方であることを、私たちは正しく理解しなければなりません。

PS  緊急事態条項についてもそうですが、今回の憲法記念日のマスコミ報道には、数字が意外だったということだけでなく、報道の仕方にものすごく違和感を覚えました。違和感の正体が最初ははっきりとしなかったのですが、東京新聞労組がTwitterで「政治記事がダメすぎる。 首相が、改憲へ挑戦する考えを明言…などと 平然と書いてどうするのか。 首相の発言は憲法尊重擁護義務に反する。 憲法違反だ。 きちんとそう書くべきだ」とつぶやいているのを見て、まさにそのとおりだと思いました。改憲するかどうかを決めるのは国民であり、内閣がその旗を振るようなことではありません。

 

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